もう一度、重なる手
「じゃあ、私、仕事戻るね。ひさしぶりに会えて、嬉しかった。アツくんもお仕事頑張って」
笑顔で手を振って、エレベーターのボタンを押す。すぐに扉を開けたエレベーターに乗り込もうとすると、「待って、フミ」とアツくんが私の腕をつかんで引き留めてきた。
「せっかく再会できたのに、これでまたしばらく会えなくなっちゃうのは嫌だな」
眉尻を下げたアツくんが、切実そうな声で私に訴えてくる。その言葉が嬉しくて、胸がドキドキした。
「十四年前に別れてから、ずっと気になってたんだ。フミのこと。元気にしてるのかな、って。だから、会えて本当に嬉しい」
「うん、私もだよ」
少し照れながら頷くと、アツくんがほっとしたように微笑んだ。
「よかった。フミが良ければ、連絡先教えて。ときどき会って、離れてたあいだのこととかゆっくり話せたら嬉しい」
「うん」
アツくんがズボンのポケットからスマホと取り出すのを見て、私も肩にかけていたカバンからスマホを取りだす。ふたりで顔を突き合わせて交換したのは、ラインの二次元バーコード。
「じゃあ、また連絡するな」
「うん、またね」
アツくんの連絡先を登録して、今度こそエレベーターに乗り込む。
だけど、アツくんと別れたあとも私の胸の昂りはすぐには治らなかった。
十四年ぶりだ。もう二度と会うことはないと思っていたアツくんに、こんなカタチで再会ができるなんて――。
アツくん——、二宮侑弘は、私にとって特別な人だった。
血の繋がりがあるわけではないし、恋愛感情を持っていたわけでもない。でも、家族よりも、これまで付き合ってきた恋人の誰よりも大切で特別。
十四年前も今も、その気持ちは変わっていない。