もう一度、重なる手
◇◇◇
母の家から電車をひとつ乗り継いで待ち合わせのホテルの最寄り駅に着くと、改札を出たところで翔吾くんが待っていた。
「史花」
涼しげな麻のベージュのパンツに白のTシャツを着た翔吾くんが、片腕にかけたジャケットを持ち上げて手を振ってくる。
家でふたりきりで会うときの翔吾くんは私を疑うような不機嫌な顔ばかりをしているけれど、外で会うときの彼は笑顔が明るく爽やかだ。
営業マンだから人前では自然と笑顔が出るのだろうけど、それがたとえ建前だったとしても、翔吾くんが笑っていると私は少しほっとする。
「ごめんね、待たせて」
「いいよ。あんまり時間ないし、行こうか」
改札を出て駆け寄ると、翔吾くんがにこっと笑って私の手をとった。
夏の気温にやられてお互いに熱くなった手のひら。それがピタリと重なって、ひさしぶりに翔吾くんにドキリとする。
翔吾くんと外で手を繋ぐのは、もう何ヶ月ぶりかのことだった。特に翔吾くんのご両親に会うか会わないかで私が渋って以降は、ふたりで会っていてもなんとなくいつも言葉にできない気まずさがあって、恋人らしい些細な触れ合いをしなくなった。
それなのに、今日に限って急にどうしたというのだろう。
駅からホテルまでの短い距離を歩きながら、私は翔吾くんの熱に戸惑うばかりだった。