もう一度、重なる手

 アツくんが予約してくれていたのは、四人掛けのソファー席。私と翔吾くんが並んで座り、向き合うようにアツくんが座ると、ラウンジの店員が水とおしぼりとメニューを運んできてくれた。

「何頼む? ここ、ケーキが美味しいんだって」

 アツくんに言われて周囲をそろっと見渡すと、ほとんどのお客さんがアフタヌーンティーやケーキのセットを注文していた。

 アフタヌーンティーは結構ボリュームが多いけど、ケーキは食べたいな。お隣の席の人が食べてるモンブランと苺のショートケーキが美味しそう。

 横目にじっと見ていると、翔吾くんが私の隣で「俺はブレンドコーヒーで」とあっさりと言う。

 翔吾くんはこういうカフェに来ても、基本的にはコーヒー一択で他は何も頼まない。

 付き合いたての頃は、翔吾くんがコーヒーしか頼まなくても私はケーキとかパフェとか好きなものを注文していたけれど、だんだんと私が食べている間に翔吾くんを待たせるのが悪いような気がしてきて。最近は遠慮して、私も飲み物しか頼まなくなった。

「じゃあ、私はアイスカフェオレで」

 翔吾くんに合わせて飲み物だけの注文で済ませようとすると、アツくんが私の顔を見て「え?」と目を見開く。

「フミ、ケーキ頼まないの? こんなふうに、苺とか栗とかがごろっとのってる感じのケーキ好きでしょ」

 アツくんが、メニューの写真のショートケーキやモンブランを指差す。

 それらはまさに、私が食べたいなぁとちょっと思っていたもので。相変わらずのアツくんのエスパー具合に驚いてしまう。
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