もう一度、重なる手
「あ、ありがとう。すぐ戻ってくるね」
私はアツくんから顔をそらすと、トイレに急いだ。
ラウンジの外のトイレに駆け込んで洗面台の広い鏡を見ると、そこには頬を真っ赤にした自分の顔が映っている。
この顔を、アツくんにも翔吾くんにも見られた。そう思った瞬間、ため息がこぼれた。
粗相のないようにと気を付けていたのに、最後の最後で大失敗。
アツくんはともかく翔吾くんは、顔を赤くしてトイレに逃げ込んだ私の気持ちを深読みして、怪しんでいるだろう。
私は冷静な気持ちになるまで鏡に映る自分を見つめてから、トイレから出た。
トイレから戻ると、既に会計を済ませてくれたのか、アツくんと翔吾くんがロビーラウンジの入り口の前に並んで立っていた。
「おかえり。フミも戻ってきたことだし、俺はここで別れようかな」
微妙な距離を空けて立っていたふたりのもとに駆け寄ると、アツくんが私と翔吾くんに微笑みかけてきた。