もう一度、重なる手
「アツくんは何で帰るの?」
「俺はここのパーキングに車止めてる」
「そうなんだ。アツくん、今日は時間を作ってくれてありがとう」
「こちらこそ。俺もフミや小田くんと話せて楽しかったよ」
本心でそう思ってくれているから謎だけど、私たちに笑いかけてくれるアツくんのまなざしは優しかった。
「よかったら、またご飯でも行こう」
「うん、また」
曖昧に次の約束をして、アツくんが私たちに手を振って歩いていく。その背中をしばらく見つめていると、それまで私たちの会話を黙って聞いていた翔吾くんが、急に私の手首をつかんで引っ張ってきた。
アツくんの前では営業スマイルを崩さなかった翔吾くんの顔から、いつのまにか笑みが消えている。
「いつまで見てんの? 俺たちも帰ろう」
「あ、うん……」
私に話しかけてくる翔吾くんの声は少し怖くて。私はほとんど翔吾くんに引き摺られるように、ホテルから出た。