もう一度、重なる手

「私とアツくんはほんとうに何も――」

「ああ。《アツくん》のほうは、史花のこと女としては見てないかもな」

 なんとか翔吾くんの怒りを治めたくて口を開くと、彼が私を見つめてボソリとつぶやいた。

「え……?」

 翔吾くんの怒りを治めるつもりだったのに、彼のひとことが私の胸にチクリと突き刺さる。

 ピクリと頬を引き攣らせると、翔吾くんが唇を歪めてふっと笑った。

「相手のことをほんとうは兄妹だって思えてないのは、《アツくん》じゃなくて史花なんだな」

「違う……」

「言っただろ。十四年も会ってなかった血の繋がらない兄なんて、ほとんど他人みたいなもんだって」

「だから、違うよ……」

 必死に首を横に振ると、翔吾くんが私の頬に手をあてて憐れむような目で見てきた。

「違わないよ。こんな簡単に絆されちゃって、史花は警戒心がなさすぎる」

「そんなこと……」

 反論しようとすると、翔吾くんが私の頬に触れていた手をゆっくりと下へと滑らせた。

 翔吾くんの筋張った人差し指が、私の唇に触れる。そうして私の言葉を口の中に閉じ込めてから、翔吾くんが唇の端を引き上げた。
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