もう一度、重なる手
5.自覚
アツくんからのラインが届いたのは、翔吾くんとともにホテルのラウンジで会った一週間後だった。
〈この前は、小田くんのこと紹介してくれてありがとう。楽しかったよ。ところで、近々下のカフェで一緒にお昼を食べない? 借りてた本を読み終えたから、返したいんだけど。フミの都合はどうかな?〉
仕事の昼休みに、オフィスビルの十五階にある休憩スペースでコンビニのサンドイッチを食べていた私は、アツくんへの返答に困った。
〈今日からしばらく、昼休みは仕事の打ち合わせを兼ねて会社の人と一緒にお昼を食べるの。だから、貸した本はしばらくアツくんが持ってていいよ。〉
五分ほど悩んだ末に、私がアツくんに送ったのはそんなメッセージ。
事務の仕事をしている私が打ち合わせを兼ねて会社の人とお昼を食べることなんてまずないけれど、アツくんの誘いを断るのにそれ以上に適当な言い訳を思いつかない。
〈わかった。また時間ができたら連絡ちょうだい。〉
送ったメッセージに、すぐにアツくんからの返事がくる。
アツくんからの誘いは嬉しいけれど、私にはもうアツくんのための時間は作れないかもしれない。
スマホの画面を切ない気持ちで見つめる。口に含んだサンドイッチを飲み込もうとすると、喉の奥が狭くて詰まるような感じがして苦しかった。