もう一度、重なる手

 父が亡くなったあと、シングルマザーになった母は生活のために働き始めた。

 結婚をしてから何年も専業主婦をしていた母が始めたのは、ファミリーレストランでのホールの仕事。だが、それも長くは続かなかった。

 私の母は外に出て真面目に働くことにあまり向かない人で。三ヶ月ほど働いていて身体が疲れてきた頃に、ファミレスの常連だったお客さんのひとりに「結婚を前提に付き合ってほしい」と声をかけられて、そのまますぐに仕事を辞めた。

 母とその人が付き合っていたのは、約一ヶ月。

 母よりも三つ年下だったその人は、母の既婚歴や私の存在を知ると、少しずつフェードアウトするようにして母から逃げて行った。そのあと、母は何度も仕事に就いたりやめたりを繰り返した。

 私の母は、男の人に頼らないと生きていけないタイプの女性で。とりわけ父のことをとても愛していた。

 それもあってか、父を亡くしてからの母は、父の面影を求めて、入れ替わり立ち替わりいろいろな男の人と付き合った。

 最初の恋人のように、一ヶ月も経たないうちに別れた人もいれば、私と母の暮らすアパートで数ヶ月一緒に住んだ人もいた。

 母はその人たちに何かしら父と重なる部分を感じていたのかもしれないが、私は彼らの誰も父と似ているとは思わなかった。母が付き合う人は、たいていがだらしのないダメな人ばかりだったのだ。
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