もう一度、重なる手

◇◇◇

「休憩、行ってきます」

「いってらっしゃい」

 由紀恵さんに見送られてオフィスを出た私は、お昼ごはんを買うためにビルの地下一階のコンビニに向かった。

 地下のコンビニで買ったものをビルの最上階の休憩スペースで食べるのがここ数週間の昼休みのルーティーン。

 前まではオフィスの近くのカフェやひとりでも入りやすいレストランでランチをしていたけど、最近の私の昼ごはんはおにぎりや菓子パン。食欲がないときは、飲むタイプのゼリーで済ませる。

 今日はコンビニに入って、おにぎりとパンのコーナーをひと通り見てみたけれど、食べたいものが見つからず。店の中をうろうろと彷徨った末に、飲むタイプのブドウ味のゼリーを手に取る。

 レジでお金を払って店を出ようとすると、「フミ?」お後ろから急に腕をつかまれた。

 私のことを「フミ」という愛称で呼ぶ人間なんて限られている。ドキッとして振り向くと、アツくんが「やっぱり」と息を吐いた。

「あれから全然連絡してくれないけど、元気だった? 昼休みはしばらく同僚との打ち合わせがあるって言ってたけど、少しは仕事落ち着いた?」

「あ、えっと……、うー……」

 思いがけずアツくんと出会ってしまい、私の頭の中はひどく混乱していた。

 どうしよう……。翔吾くんにはもう、アツくんとは会うなと言われているのに。

 偶然とはいえ、アツくんと会ったことが翔吾くんにバレたら、彼の監視の目は今よりももっと厳しくなるだろう。

 そうなったら、怖い……。

 翔吾くんのことを考えるだけで、血の気が引いた。
< 91 / 212 >

この作品をシェア

pagetop