もう一度、重なる手

 ゆっくりと開いていく扉の向こうにはスーツやオフィスカジュアルな服装の人たちが数名立っていて。エレベーターに乗り込もうとした瞬間に、白衣姿のアツくんにお姫様抱っこをされている私に気付いて、全員が扉の前でぴたりと足を止める。

 目を見開いたり、呆然とした顔で私たちを見つめる人たち。彼らの視線にさらされて、恥ずかしさで消えたい気持ちの私と平気な顔で他の乗客のためにエレベーターの壁側に寄ってスペースを空けるアツくん。

「乗られますか?」

 扉の向こうで固まっている人たちにアツくんが涼しい笑顔で訊ねるけれど、エレベーターに乗り込んで来る人はひとりもおらず。私たちふたりだけを乗せたまま、扉が閉まる。

 そんな展開が、二階と四階でも繰り広げられ。医療モールのある五階にたどり着く頃には、私の神経と体力はかなりすり減っていた。

「二宮先生。その方、どうされたんですか?」

 アツくんに抱きかかえられたまま内科クリニックに入ると、受付に座っていた制服姿の女性が驚いたように目を見開く。

「ああ、うん。このビルで働いてる俺の知り合い。体調悪いみたいだから連れて来た」

 そう説明すると、アツくんがようやくクリニックの待合の椅子に私をおろしてくれる。

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