もう一度、重なる手

「最近暑くて、あんまり食欲ないから……」

 そそくさとカバンの奥にコンビニで買ったゼリー飲料を押し込んでいると、横顔にアツくんの視線を感じた。

「食欲がないのは、ほんとうに暑さだけが理由?」

 私の心の奥まで全てを見透かすようなアツくんのまなざし。それに抗えなくて、つい目が泳ぐ。

「とりあえず、貧血の検査しよう。必要だったら点滴も。ついでに診察室で、ゆっくり話も聞かせてもらうから」

 アツくんは私の手をとって立ち上がると、有無を言わせない態度で私を診察室に導いた。

「すぐ戻るから、その間に会社に連絡入れてね」

 診察用の丸い椅子に私を座らせると、アツくんが診察室の奥へと入っていく。

 言うことを聞かなかったら、またしかめっ面をされそうなので、仕方なく由紀恵さんにラインを打った。そうしている間に、アツくんが注射のセットを持って戻ってくる。

 パソコンが置かれたデスクの前に座って私のほうを振り向いたアツくんは、あたりまえだけどちゃんとお医者さんにしか見えなくて。かっこよかった。

 どこからどう見たって、患者の私に対峙するアツくんは若手のイケメンドクターだし。もしかしたら、アツくん目当てでこのクリニックに来ている患者さんだっているかもしれない。
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