もう一度、重なる手
「今までは大丈夫だったってことは、ここ最近で大丈夫じゃなくなるような何かがあったってこと? さっきも聞いたけど、食欲が落ちてるのは暑さのせいだけじゃないよね?」
「……」
アツくんの顔を直視できずにうつむくと、診察用の椅子の横に置いたカバンの中でスマホが鳴った。
たぶん由紀恵さんからの返信か、翔吾くんからの所在確認。由紀恵さんからならすぐに既読をつけなくても平気だけど、翔吾くんからだったら……。
翔吾くんの執着とほんの少しの狂気が混じった冷たいまなざし。それを思い出しただけで、勝手に手が震えた。
「ごめん、ちょっとスマホ……」
アツくんに断りを入れてカバンからスマホを取り出すと、届いていたのはやっぱり翔吾くんからのラインで。
〈今、昼休みだよな? 何食ってる?〉
毎日のように送られてくる定型文のようなメッセージに、手の震えが激しくなった。
いつもは翔吾くんからのメッセージに、休憩スペースの背景が入ったコンビニのごはんの写真を送る。だけど今日は、それができない。
ここで飲むタイプのゼリーの写真を撮って送れば、背景が違うことがバレるだろうし。ゼリーの写真だけアップにしたら、居場所がわからないから翔吾くんに疑われるがしれない。
そういえば、さっきコンビニからここまでアツくんに抱かれてきたけれど、あの姿をこのビルに仕事で出入りする翔吾くんや彼の知り合いに見られなかっただろうか。