この胸が痛むのは
今週に入ってずっと快晴続きのバロウズの空に
続くリヨンの海も穏やかだったろうに。
覚悟をして、フォンティーヌとその一行は船に 乗り込んだのだ。
たった一晩、数時間、少しの言葉を交わしただけだ。
それなのに、何で涙が出るんだ。



『環境がひとを作る』
そうクラリスに言われた。
兄に殺されるかもしれない、そんな覚悟を持たなければいけない環境にフォンティーヌ王女はずっと居たんだ。
それに比べて周囲に甘やかされていただけの俺なんか……


王城に戻ると、王太子から共にガーランドへ行くようにと伝えられた。
自国の領海内で起きた海難事故だと、捜索や事故処理をおざなりに済ますであろう王太子に、少し脅しをかけるつもりで乗り込むらしい。

バロウズ訪問の帰りに起きた事故だ。
こちらにも責任があるだの、我が国からも事故の原因究明に協力したいだのごねて、リヨン海域捜索の許可をもぎ取る、と言う。


「この国に逃げなさいと仰ってくれた事は忘れません…と出立する時に、何度も何度も感謝の言葉を言っていたんだ」

王太子の声に無念さが滲んでいた。



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