この胸が痛むのは
「それでね、イシュトヴァーンはトルラキアの
男子によくある名で、長男に付けられる事が多い。
 ウチは祖父も父もイシュトヴァーンだからね」

「……ひとつのお家の中でも、同じ名前の方が3人いらっしゃるんですね」

「そうだ、だから家長の祖父以外、父はイオン、僕はミハンとミドルネームで呼ばれているよ」


意外にも先生はよくしゃべられる方で、多分私の教室まで先生はずっとお話し続けられるのだろうと理解しました。


「トルラキアではここと違って、姓が先になるからね。
 国に帰れば、僕はストロノーヴァ・イシュトヴァーン・ミハンになる。
 僕個人よりも家名が重要視されてるみたいで若い時は嫌だったな」

「……」

「話は戻るけど、ヴラゴ王が吸血鬼と云われたのは外敵を手酷く処刑したからなんだ。
 トルラキアを狙えばこうなる、と見せしめにしたんだけど、残酷過ぎると他国では鬼だと言われて」

話をヴァンパイア王に戻さなくても結構です、と言えたら良かったのに言えませんでした。
図書室から教室までの距離が長い。
お願い、残酷過ぎる処刑の方法だけは言わないで。


「現在は落ち着いているけれど、とにかく昔からトルラキアは戦争続きでね。
 死人還りも、そう言った政情から生まれた民間伝承と言うか願いと言うか、ささやかな希望と言うか……」
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