この胸が痛むのは
リーエの恋の遍歴(これは本人が恋の遍歴だと
言い張るので)を聞かせて貰う合間に、私は 
フォード様の話を入れます。

1回目のお話は一昨日。
子犬を譲って、お家にご招待いただいた話を致しました。
昨日の2回目では、プレゼントを母に横取りされた事を聞いて貰いました。

少しずつしか話さないのは、私と殿下の間にそれほどの出来事がないから。
リーエはやっと、小学校にあがって1年生の頃の彼の話をしているのに、私の話は今日の3回目で完結してしまいます。

昨日はリーエは聞いている途中で立ち上がり、
部屋をぐるぐる歩きながら何事か叫んでいました。
3周ほど回って気が収まったのか、私の隣に腰掛けて
『続きをどうぞ』と催促されましたが、何を叫んでいたのか、尋ねると。


「こっちの言葉で、泥棒、って罵ったの。
 ごめんね、アグネスのお母さんなのに」

思わず、彼女を抱き締めていました。
リーエ、貴女があの時、私の隣に居てくれていたなら!

……これは今だから、わかる事ですが。
その通りに、もしリーエがバロウズの貴族令嬢で。
初等部の隣の席に座っていて。
私の仲の良い友人だったとしても。
きっと私はリーエに何も打ち明けなかった。
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