この胸が痛むのは
「夏休みは、おばあ様とトルラキアへ行くんだ、って言ってた。
 君が薦めたの?」

クラリスに向かって、恨めしげな声が出てしまう。
トルラキアは、ストロノーヴァの母国だ。
コイツがトルラキアはお薦めよ、なんて言ったんじゃないのか。
もしかして将来の為に、アグネスに下見を頼んだか。

だが、それを聞いたクラリスの顔は見物だった。


「トルラキア? え、トルラキア?」

驚いている……これは初耳なんだな。
じゃあ、アグネスはどこからあの不気味な国に
行く気になったんだろう?


 ◇◇◇


アグネスの態度にすっきりしないまま、俺は父親のスローン侯爵を思い出す。


夜会の翌日、午前の早い時間だった。
例のブレスレットを返しに来たスローン侯爵と
偶然に会った。
前日の夜会の警備の協力と、クラリスが助けて
くれた事のお礼は、侯爵家へ行って伝えるつもりだったが、王城で会えたので取り敢えず、頭を下げた。
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