この胸が痛むのは
「ただ泣かせたいんだな、謝らせたいんだな、とわかるし、その目的が達成すると、すぐ解放するので。
 関わりたくなくて、いつもは声を掛けてなかったのですよ。
 軽蔑されるでしょうけれど、私は王家に関わる様な面倒が嫌いな、教師の出来損ないですからね」

「……」

「でも、あの日、アグネス嬢を囲んでいた様子がいつもと違っているように思えて。
 苛められている側のアグネス嬢からの違和感と言えば良いのかな、ここで聞いていた私でもそうなので、対峙していた王女はもっと感じていたんでしょう。
 このままにしていたらエスカレートすると思い、口を出しました」


妹の仕出かした事に怒りと恥ずかしさと。
そんな目に合わされた事を、アグネスは何故話してくれなかったんだ。
それであの日、あんなに無理した笑顔で俺に対応してたのか?


「普通の蝶よ花よと育てられている貴族令嬢ならば泣き出して、悪くはなくても謝る所なのに、
彼女は言われるがままになっているだけでした。
 でもそれが却って、相手にされていないと王女の怒りを増幅させていた」

「アグネスは大人びていますから、バージニアの馬鹿げた文句なんか聞き流していたのでしょう」

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