この胸が痛むのは
「あー、やっぱりクラリスはお目が高いね。
 なんか、俺もさ……」

俺の隣で、最後まで言葉にせずにレイが言う。
諦めたのか、そうだろうな。
俺も完全に納得はしていないが、もう少しアグネスとは会話が必要なのは確かだ。


彼女が旅行へ行ってしまえば、少なくとも1ヶ月は帰国しないだろう。
このバロウズに比べて、トルラキアは格段に涼しくて過ごしやすい。
年老いた彼女の祖母は彼の国で、ゆっくり過ごしたがるような気がする。
いつ出発なのか教えて貰おう、そう思って。
放課後にクラリスを捕まえて伝言を頼んだのに。

俺が知らない間に、彼女は出国していた。


夏休みに入って2週間が過ぎた頃。
高等部でバロウズ出身の世界的ピアノ奏者の講演会があって、俺も登校した。

例の花火祭りは来週で、アグネスからの連絡もないし、再来週以降に旅行に行くのなら別荘へ誘えるんじゃないか、と思っていたら。


『是非、お耳に入れたい事があります』と、
クラリスから言ってきた。
学園の大ホールで行われる講演会の為に、皆で
ダラダラ移動してる廊下でだった。

< 166 / 722 >

この作品をシェア

pagetop