この胸が痛むのは
レイを間に入れて、3人で並んで歩く。


「アグネスの出発日のこと?」

「……アグネスからは何も知らされていないんですか?
 とうにトルラキアに到着してると思いますけど」

クラリスの返事につい、足が止まり。
後ろを歩いていた生徒にぶつかられて。
あわわと謝られて、気にしないでと手を振る。
……ショックで、もう……

出発する日を教えてくれと頼んでいたのに。
アグネスに無視されたショックを抱えて、天才音楽家のピアノ演奏を聴く。
各自のクラスの席に着く為に離れ間際、レイからは慰めの背中叩きを貰った。
クラリスからは放課後に時間を、と言われた。

多分、素晴らしい演奏を聴かせて貰っているのに、耳に心に響かない。
これはもう、アグネスを諦めるしかないって事か。

会えたら一番に、バージニアの事を謝ろうと思っていた。
話してくれなかったのは、俺が頼りないからだろう。
でも、これからは何かあれば話してほしい。
侯爵やストロノーヴァのようには守れないかも
知れないけれど、俺は俺の出来る限りで君を守りたいんだと伝えたかった。


 ◇◇◇


「先日、アグネスに縁組の打診がありました」

クラリスが言った『是非、俺のお耳に入れたい事』は衝撃的だった。
16のクラリスならわかる。
だが、アグネス? まだ9歳だぞ?
< 167 / 722 >

この作品をシェア

pagetop