この胸が痛むのは
「ちゃんと聞いた?」
「……うん」
「トルラキアの男の子とは、付き合わない?」
「うん」
「夜に話を聞かせてね?」
「うん」
出会い市で殿下は手作りの組み紐を、私に買ってくださいました。
騎士様に通訳されながらも、ご自分で直接交渉
して『まけて』とやり取りするのは、とても楽しそうでした。
手招きされて鮮やかな色の組み合わせの中から、どれが欲しいか尋ねられて。
色の洪水に選べなくて『お任せします』と言うと。
全体的には赤いのですが、その中に金色と紫色の糸が組込まれている一本を選ばれました。
「手首に何重にも巻いてもいいし、髪に結んでもいいらしい。
どっちに結ぶ?」
私が左の手首を差し出したので、殿下はゆっくりと巻いてくれました。
「贈り物はエスカレートしていくからね。
最初は組み紐だけど」
殿下の仰った事がよくわからなかったのですが、結ばれた私の手首に顔を近づけて、マーシャル様があきれたように声を張り上げられたので、そちらに気を取られてしまいました。
「色が控え目過ぎるよな!」
「あからさまなのは、好みじゃない」
赤い中に、控え目な金と紫。
あの時、殿下をからかったマーシャル様の笑顔。
怒ったように答えた殿下の表情。
アグネスとお揃いにしたい、とパエルさんを見上げておねだりをしていたリーエ。
今から振り返りますと。
この日が、幸せな……一番幸せな。
護衛騎士様達も含めて、その場に居た皆様が笑っていました。
涙も疑いも苦しみも憎しみもない……
私の一番幸せな、特別な思い出の日になりました。
「……うん」
「トルラキアの男の子とは、付き合わない?」
「うん」
「夜に話を聞かせてね?」
「うん」
出会い市で殿下は手作りの組み紐を、私に買ってくださいました。
騎士様に通訳されながらも、ご自分で直接交渉
して『まけて』とやり取りするのは、とても楽しそうでした。
手招きされて鮮やかな色の組み合わせの中から、どれが欲しいか尋ねられて。
色の洪水に選べなくて『お任せします』と言うと。
全体的には赤いのですが、その中に金色と紫色の糸が組込まれている一本を選ばれました。
「手首に何重にも巻いてもいいし、髪に結んでもいいらしい。
どっちに結ぶ?」
私が左の手首を差し出したので、殿下はゆっくりと巻いてくれました。
「贈り物はエスカレートしていくからね。
最初は組み紐だけど」
殿下の仰った事がよくわからなかったのですが、結ばれた私の手首に顔を近づけて、マーシャル様があきれたように声を張り上げられたので、そちらに気を取られてしまいました。
「色が控え目過ぎるよな!」
「あからさまなのは、好みじゃない」
赤い中に、控え目な金と紫。
あの時、殿下をからかったマーシャル様の笑顔。
怒ったように答えた殿下の表情。
アグネスとお揃いにしたい、とパエルさんを見上げておねだりをしていたリーエ。
今から振り返りますと。
この日が、幸せな……一番幸せな。
護衛騎士様達も含めて、その場に居た皆様が笑っていました。
涙も疑いも苦しみも憎しみもない……
私の一番幸せな、特別な思い出の日になりました。