この胸が痛むのは
毎回訪問の度にプレゼントをしてくださる殿下でしたが、何故か母にも同様に、お花を持ってきてくださるようになっていました。
それで私も仕方なく母に渡すので、段々と少しずつ会話も増えつつありました。
口には出されなかったのですが、殿下は以前の母の偽りを許してくださったのかも知れません。


殿下からの12歳の誕生日プレゼントは、紫色の小さな花をあしらった白いダンス用のシューズでした。
中等部になると、授業で社交ダンスを学ぶのです。


「今年からデビュタントまで、毎年靴を贈るからね。
 少しずつ踵を高くしていこう。
 学園のダンスの授業以外は、ダンスを君に教えていいのは俺だけだから」


君の好きにしていい、なんて仰っていたのに。
この頃になると少しずつ『俺だけ』や『ふたりだけ』等と仰るようになってきて。
以前は私に触れるのも髪に口付けするだけだったのに、ある日いきなり掴まれた指先に唇を寄せられて、それをたまたま通りかかった父に見られてしまって、その月は会えなくなった事もありました。


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