この胸が痛むのは
「恐らく、祖父は姉の縁談を進めようとしてるんだと思います」

「……姉上はそれに抵抗しているんだな?」

「僕らが出発する朝はまだ部屋に閉じこもっていましたけれど、先代は強引なんです。
 押しきられてしまうかも知れません」

「……」

プレストンの説明に、殿下はそれきり黙られて。
学園で仲の良かった友人の縁談の話に、何も仰らず……
ずっと何かを考えておられるご様子でした。  
私にはそんな殿下が不自然に見えて。
予感と言うのでしょうか、説明出来ない不安が胸の辺りに渦巻いていました。


夜空には美しい花火が打ち上がり、辺りを明るく照らしていました。
私の隣に立つ殿下のお顔には、花火に照らされた光と同じ分の暗い影も見えて。


これからはお互いに思っている事を話そう、と仰ってくださったのに。
ここで見る花火は最高で、アグネスに見せてあげたかった、と何度も仰ってくれていたのに。



どうして隣にいる私に、何も言ってくれないのですか?
貴方は今何を考えているのですか?
貴方は本当は誰を想っているのですか?
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