この胸が痛むのは
殿下が父を苦手にしている事を、この家の皆が
微笑ましく思っているのを知っていたので、私はそう誤魔化しました。


「ホールでお待ちになってる騎士様にも、こちらをお出しして休んでいただいてね」

ほっとしたように微笑むメイドから焼き立ての
カップケーキのお皿を受け取って、私は温室へ
足を進めました。

胸は早鐘を打つように激しく、足はもつれそうになって。
……護衛騎士様を伴わずに、ふたりだけで会っている。


今日のこの時間。
父は登城し、母は昼食会だと、朝食堂で話していました。
兄と私は登校しています。
うちに居るのは、学園を卒業した姉だけ。
今日なら、他には誰も居ないと姉が連絡したのでしょうか?
それで殿下は慌てて会いに来たのでしょうか?
姉の縁談がどうなったのか、知りたくて?


音を立てないように温室へ滑り込むように入りました。

『私は貴方が語る言葉と、自分自身の目で見た
貴方の姿だけを信じます』

以前、殿下に誓った言葉を思い出しました。
貴方が姉に何を語るのか、貴方は姉に対してどう行動するのか。
それをこの耳で、この目で確かめなくてはいけない。
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