この胸が痛むのは
ボソボソと話し声が向こうから聞こえてきました。


「誰にも聞かれてないと思うけれど、念の為あっちの言葉で話しましょう」

「そうだな、わかった」

それは……紛うことなき姉と殿下の声でした。
私は思わずその場に座り込みました。
誰かに聞かれたら困る話を、ふたりはこれから
すると言うのです。


ふたりは会話を始めて……信じられない事にそれはトルラキア語でした。
私がトルラキアの言葉を学びたいと話した時、
殿下はがんばって、と励ましてくれたのに。
3年前には通訳なしでは、買い物も出来なかったのに。
何でも話してくれると、仰っていたくせに。


一体いつから習っていたのでしょうか。
流暢とまでは言えなくても、私よりは遥かにお上手です。
ここまで話せるなら、どうして私に教えてくれなかったのでしょう。

それにクラリスだって。
トルラキアの難しい『ヴ』の発音も完璧だなんて。
姉だって、私が発音の習得に四苦八苦していることは側で見ていたのに。
信じたくは無いけれど、拙い、なかなか進歩しない私のトルラキア語をふたりで嗤っていたのかも、とそこまで卑屈に考える位、私は打ちのめされていました。
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