この胸が痛むのは
リーエから何度も練習させられて、これだけはちゃんと覚えています。

それを聞いたクラリスは嬉しそうに、声をあげて笑って。


「もう一度、言ってください」

『……私はあなただけを愛しています』

「もっと、ちゃんと言わないと」

「もう、やめた、言わない」

「もう一回だけ、トルラキアの愛してる、って素敵ですね。
 うっとりします」

「あのなぁ、これで最後だからな。
『私はあなただけを愛しています』」


姉に請われるまま、何度も愛していると繰り返すその声を、聞きたくなかった。
私の事は好きだよと、今まで何度も言ってくれたけれど。
愛していると言われた事は、一度もありませんでした。


それに、あんなに気安そうな殿下の口調は初めてでした。
私には見せられない本当の姿を、姉には見せているように思えました。


ぐちゃぐちゃな気持ちのまま、私は姉の部屋に飛び込み、クローゼットを物色しました。
どれも皆、姉が着ていて、見たことのあるドレスでした。 
そんなあさましい真似をしている自分を、部屋の隅からもうひとりの私が呆れた目で見ていました。
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