この胸が痛むのは
最近読んだ小説で夫の浮気を疑ったヒロインが、夫のワードローブを物色するのです。
まるで浮気が確定したように、取りつかれた様に証拠を探すヒロインを哀れに思ったのに。

今の私がそれだ。
恋人と姉の浮気の証拠を押さえようとしている。
惨めなのに、探す手を止められない。
それらしきものを探る目があちこちへ動く。


その時、円柱型の帽子入れが積まれたコーナーにひとつだけ大きな四角い箱が置かれているのに
気付きました。
これだ、と確信しました。



箱の中には紫色のグラデーションが見事なドレスが入っていました。


『あからさまは好きじゃない』 
嘘ばっかり、こんな独占欲の塊の様なドレスを
クラリスに贈って。

殿下との仲を応援している母が、このドレスに騒いでいないと言うことは、母の留守の間に届いたのでしょうか。
それとも、もしかして今日、殿下はご自分で届けられた?


限りなく事実に近いであろう想像を止めることが出来なくなりました。
私の手はドレスの上に乗せられていたカードを
開いていました。
封筒には確かにクラリスの名前があり、間違いなく、このドレスは姉宛に贈られたもの。

そこには。
『愛を込めて  アシュフォード・ロイド・バロウズ』
と、流麗な飾り文字が綴られていたのです。


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