この胸が痛むのは
「あの頃の先生は髪型なんかもスッキリしてて、あの素敵な瞳を出していらして、シュッとしていて……」

なるほど、まぁそうだよな、母国じゃ名門公爵家の後継者だ。
こっちに来たばかりの頃なら、キラキラしてるよな。
 
最初は先生の出自に気付かなかった俺も、アグネスを追いかけて入国する前に、トルラキアについて調べた。
そこで『王家の赤い瞳』やストロノーヴァ勇猛公を知った。
勇猛公は英雄王の弟で、兄貴の右腕として外敵を蹴散らし、残酷に処刑した責任者で、怖すぎる男だ。



夏休み明け、スローン姉妹が来る以外の日に俺は先生に会いたくて図書室に向かう。


「家名とか、肩書きとか。
 鬱陶しく思った事、ありますか?」

「……ありますよ。
 俺と仲良くしようとするのは、家のおかげなのかとか、近づいてくる皆を疑いましたねぇ。
 この目の色や、家名だけじゃなくイシュトヴァーンが嫌で嫌で、ただミハンとのみ名乗った時期もありました」



イシュトヴァーンは、選ばれた家門の嫡男のみに名付けるのを許される。
特徴的な瞳を見せるのが嫌で、わざとむさ苦しくしてるのかと思っていたが、ただのズボラか。
それに今は本名を名乗っている。


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