この胸が痛むのは

第6話

アシュフォード殿下からのバースデーのランチのお誘いが私と母に届けられました。
父の目が気になるのか、母は抑え目に喜び、どんなドレスがいいかしら等ウキウキとされていました。
それから私は殿下へのプレゼントについて、母から尋ねられたのです。


「最近、広まってきたペンがありますよね?
 インクカートリッジを入れると、いちいちインク壺に浸けなくてもよくて……。」


これも前に四阿でお話ししてくださった事なのですが、
『書類にサインをしていると、自分の名前の途中でインクを足して書かないといけないのは気分が悪いね』と、仰せになっていたのです。
ご自分は見習いだと仰られたのに、書類にサインをされる立場の御方なのだと気付いていなかった私でした。

その時の私が何を考えていたかと申しますと、父が最近城下の文房具店でも、ペン先にインクを馴染ませなくてもよいペンが売り出されたらしいと、お話しされていた事をぼんやりと思い出していたのです。
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