この胸が痛むのは
先手必勝みたいに喧嘩腰はやめてくれ。
俺は別にイライザ嬢を責めてない。
『何で、ですか?』と、言っただけだ。


近く開かれる夜会の打ち合わせをしていた。
王家オールスターズの大人達で。
夜会の名目で招待状を出したが、本当は以前高等部の講演会に来てくれたピアノ奏者の王家主催の凱旋演奏会だ。
この3年でますます彼の名声は高まり、演奏会のチケットは争奪戦だ。
そんなわけで彼の名前を出すと、社交界に激震が走るので内密にしていた。

大体の流れが決まったので、デビュタント前だが、アグネスをパートナーにしたい、と口にした。
アグネスのピアノの腕前はなかなかで、尊敬する世界的ピアノ奏者を間近に見せてあげたかった。

国王陛下が返事をする前に、イライザ嬢が俺に向かって微笑んだ。


「巷では、今回の夜会はアシュフォード殿下の婚約発表だと思われていましたけれど、妹さんをエスコートして差し上げるなんて、クラリス嬢にお願いされたのですね?」

「どうしたのかな? ガードナー侯爵令嬢?」 

王太子のこの話し方は、気を付けなくてはいけない。
優しげだが、本当は優しくない気分の時だ。
ギルが婚約者を心配そうに見ている。

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