この胸が痛むのは
まあ、確かに別荘から帰ってきてから、手配にバタバタしたけど。
今はそれより、ドレスとカードだ! 


『お願い、って何?』

珍しくクラリスが言いづらそうにしてて。
何だよ!早く言えよ、こっちは急いでるんだ!
そう急かしたいのを堪える。


『……って、言ってくれません?』

『何、はっきり言って?』

『……愛してる、って……先生の代わりに』


はあぁ? あれか、ストロノーヴァ先生の代わりにトルラキア語で愛してる、って言えって?
アグネスにも、まだ愛してるなんて言えてないのに。
何で、コイツに!


呆れて何も言えない俺に、クラリスが頭を下げる。
それに驚いた。
コイツに下げる頭があったとは。


『先生のその一言があれば、頑張れます』

え、俺を先生に見立ててお願いモードに入ったか。 
目をつぶって、胸のところで手を組んで、お祈りか。
しばらく眺めているのに、そのポーズを崩さない。
確かに、貴族令嬢の身で、単身国外へ出るのは危険で不安もあるだろう。
先生からの一言を支えにしたいなら。


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