この胸が痛むのは
自分でも何言ってるんだ、と思った。
アグネスのデビュタントでしたいと計画していた事を話していた。

クラリスやイライザ嬢を、あのドレスを、冗談のネタにして欲しくない。
聞いていて不愉快だった。
俺の失態を笑い話にしてくれているのかも知れない。
だが、罵られた方がましだった。 
俺はこうして有耶無耶にして、自分の失敗を誰かのせいにして、ずっと許されてきたんだ。

両親は黙り、兄は微妙に笑っている。
ここは私的な場で、両親は両陛下じゃない。


ギルだって本気なんだ。 
イライザ嬢を傷付ける奴は、弟でも許さない勢いだった。

ギルバートにはイライザが。
俺にはアグネスが。
他に代わりは居ない。 
冗談でも言わないでくれ。

他には誰も要らない。


 ◇◇◇


今夜は満月、静かな夜だ。

俺が入国前に読んだトルラキアの資料には、あの国では月にも何か意味があると書いていた。
この国では月は単なる月でしかない。

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