この胸が痛むのは
「……行方を探されていたスローン侯爵家の馬車が王都外れの森にて発見されたそうです。
 遺体は3体、男性1体、女性2体」

「遺体? 行方を、探して? 何の話だ!」

「男は侯爵家の御者。
 女性はスローン侯爵夫人と、ご令嬢とおも……」

立ち上がって、カランの腕を掴んでいた。
アグネス、アグネス、アグネス!
まさかまさかまさかまさか


「おい、おい、おい」

おい、おい、と。
ただそれだけを繰り返す。
力の加減が出来ない。
他の言葉が出なくて、カランの両腕を掴んで揺さぶっていた。
掴まれ、揺さぶられる痛みで、カランの顔が歪む。


「せ、せいじん……成人女性の、に、2体ともらしいので……
 あ、アグネス様では、ない……」

アグネスでは……ない?
成人女性?



カランの腕を放し、床に座り込んだ。
俺は最低な奴だ。

亡くなったのがアグネスではないと知って。
亡くなったのが、彼女の母と姉らしいのに。


アグネスを失わずに済んだ事を。
ただ、それだけを。
跪き、頭を床につけ、両手を握り。

『ありがとうございます、ありがとうございます』

ただ、それだけを繰り返し。
神に感謝したのだから。


< 263 / 722 >

この作品をシェア

pagetop