この胸が痛むのは
第44話
王城に戻られる殿下を見送って。
『すっかり遅くなってしまったわね、お食事にしましょう』そう言って、一足先に食堂へと向かった母に続いて姉も歩き出したので。
「なぁに? アグネス?」
私が後ろからいきなり肘を掴んだので、姉はとても驚いていました。
「これからは殿下ではなくて、フォード様と呼ぶ事になりました。
お姉様はお気付きになりました?
フォード様の左手」
「……左手、あぁ見たわ、黒い……」
「フォード様にトルラキアでいただいた、これです。
私もお返しにお贈りしたくて、お揃いを注文していたんですけれど、この前リーエが送ってくれたので、さっき温室でお渡し出来たんです」
自分だけの愛称呼びを報告して。
左手首に巻いた赤い組み紐を、姉に見せて。
温室で、お揃いのそれを殿下に渡した、と強調して。
それを聞いた姉の反応を見たかったのに。
……なんて、憎たらしいのだろう。
少しの動揺もなく。
ニコニコして、臆面もなく言うのです。
「お揃いなのね、いいわね。
凄く素敵で、羨ましいわ。
トルラキアって、そういうのが盛んなの?」
『すっかり遅くなってしまったわね、お食事にしましょう』そう言って、一足先に食堂へと向かった母に続いて姉も歩き出したので。
「なぁに? アグネス?」
私が後ろからいきなり肘を掴んだので、姉はとても驚いていました。
「これからは殿下ではなくて、フォード様と呼ぶ事になりました。
お姉様はお気付きになりました?
フォード様の左手」
「……左手、あぁ見たわ、黒い……」
「フォード様にトルラキアでいただいた、これです。
私もお返しにお贈りしたくて、お揃いを注文していたんですけれど、この前リーエが送ってくれたので、さっき温室でお渡し出来たんです」
自分だけの愛称呼びを報告して。
左手首に巻いた赤い組み紐を、姉に見せて。
温室で、お揃いのそれを殿下に渡した、と強調して。
それを聞いた姉の反応を見たかったのに。
……なんて、憎たらしいのだろう。
少しの動揺もなく。
ニコニコして、臆面もなく言うのです。
「お揃いなのね、いいわね。
凄く素敵で、羨ましいわ。
トルラキアって、そういうのが盛んなの?」