この胸が痛むのは
『大人の小説よ』と、読書好きの同級生から借りて読んだ時には、ふたりに限って浮気はない、ヒロインが勝手に疑っているだけ。
そうとしか読めなかったのに。
多分これからの私は、ヒロインが信用していたふたりの態度や言葉の怪しさばかり目についてしまうのだ、と思いました。



昼食の間、母は陽気でした。
食事の間は話す事を止められている所もあるそうですが、我が家では父が、どんどん話す様に推奨していました。
先代から『食事中は食べる以外に口を動かすな』と、育てられていて、食事の時間が苦痛だった
そうなのです。


「お食事会にお招ばれしたのに、要らない事を敢えて耳に入れようとする人達まで来ていたのよ」

いつも母のお喋りに相槌を打つのは、姉の役目でしたのに。
お気の毒に姉はあれこれ算段しているのか、聞いてもいないようでした。

それを見た私は、とても気分が良くて。
姉の代わりに、母のお喋りに付き合う事にしたのです。


「要らない事とは?」

「つまらない噂よ。
 今度の夜会はアシュフォード殿下とクラリスの婚約を披露する為か、とか」

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