この胸が痛むのは
『憎む相手を思い浮かべて』

『その顔が手鏡に浮かんでくれば』

『そして念じる、消えろ、消えろ、邪魔物は消えろ』

『5回唱えて。グラスの水を飲み干すの』


一通り、呪いの方法を伝授した上で、勿体ぶった口調でリーエが言い出しました。


「でもね、顔が手鏡に浮かんでこない場合もあるわ」

「邪魔な人が鏡に映らないと言うこと?」

「その場合はそれ程、呪わなくてもいい相手だと言うことよ。
 呪うまでもなく、そいつは勝手にいなくなるという事なの」



本当はそれを信じたわけではありません。
『魔女の恋敵を排除する呪い』なんて、本当にあるわけはない。
教えてくれたリーエだって、最後は笑っていました。
ただ、誰かを消えてしまえと恨む程、憎むのだったら。
気休めにしろと教えてくれたのだと、わかっていました。
だって、手鏡に憎い相手の顔が映る等とあり得ないのですから。

そう思っていたのに。
偶然にも、今夜は満月で。
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