この胸が痛むのは
祖母はバロウズのタウンハウスを処分して、トルラキアの別荘に夏だけではなく本格的に移住を決めたのです。
そうは言っても、前伯爵夫人という肩書きがありますので、それを捨ててトルラキア国民になるというのでもなく。
王国の外務事務次官様と何度も面談し、書類をやり取りし、全財産を持って出るのではなく、1年に1回はこちらに戻る事を条件に許されたのです。


私は前回ひとりで祖母の元へ遊びに行った時に
その話を聞き
『選びなさい』と、祖母の秘蔵の宝石類から好きなものを選ばせて貰いました。

祖母は私が選んだ3点を美しい箱に入れて、他の宝石類とは別のところに仕舞い込みました。
そして後の残り8点から母と姉に選ばせる、と仰いました。 
移住の話はまだしないでね、と言われていて、今日の母達の呼び出しは、その話を聞かされ、宝石を選ばされるのでしょう。


朝食が終わり、兄と登校の為に馬車に乗ろうとすると、姉が見送りに出てきました。


「怪我をしたの?どうしたの?」

昔、大好きだった姉と兄を追いかけて、幼くて体力のなかった私は転倒や突き指もよく致しました。
するとその時、姉は私の手を握って……
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