この胸が痛むのは
俺に出来る最後のお礼。
侯爵夫人には、アグネスを慈しんで、育ててくれたこと。
クラリスには、友情と覚悟を、教えて貰ったこと。



事故現場にはカランとレイと、護衛2人、若い典医の6騎で向かう。
出来るだけ現場を荒らしたくないし、馬車より小回りが利く。
誰しも考える事は同じで、先に現場に到着していたプレストンも馬で来ていた。
彼の側には護衛がひとり、松明を掲げていた。

俺達に気付いたプレストンが頭を下げたので、ここでは挨拶は無用だと手を上げて、遮った。


「……妹は祖母と、家にいます」

「今は君の方が心配だ、大丈夫か?」

「……ある程度の覚悟はしていましたが、いざとなると。
 きついです」

「お父上は?」

「うちの騎士隊長と、馬車のところ……
 母と姉の側で……連れて帰る為にふたりを引き離すのに時間がかかるだろう、と……
 それまでは、私は近づくなと言われています」

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