この胸が痛むのは
俺が頷くと、王太子は一筆走らせて封筒に入れ、蝋を落とす。


「スローンの家令にこれを預けてくれ。
 今夜はまだ、侯爵には渡さなくていい、と伝えてな。
 煽るだけ煽り、相手が事故を起こすと逃げて、口をつぐんでいる小心者だ。
 案外、あぶり出すのは早いかもな」


王太子の執務室から、自分のそれに向かう。
中では軽食が用意されていて、レイとカランがいた。
同じ様な光景を夕方見た。
あれは、何時間前だった?

俺は疲れてて、お前達ふたりでお茶を楽しんでいるのに文句を付けた。
……今日の事なのに、ずっと昔の事みたいに思える。

食欲なんて無い。
それはふたりも同じなんだろう。
テーブルに並べられた食事には、手を付けられた形跡はない。
このふたりは食べるのを、俺を待つ様な関係ではない。


「今夜は長くなりますよ、何か腹に入れた方が良いかと」

自分は食べないくせに、カランが食べるように勧めてくる。俺は手を振り、お茶だけをもらう。


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