この胸が痛むのは
あいつの目が俺ばかりを気にしている間に、王太子は証人も証言も手に入れていた。
葬儀の後にしか俺は動かないと安心して、証人を片付ける事を先送りしたあいつが家族を連れて参列している間に。
何故なら立場上、葬儀に参列しないと怪しまれてしまうかもしれないから、それで本当は来たくもなかった葬儀に顔を出した。

その間に疑心暗鬼になっていた実行犯に、あいつに口を塞がれて消されると思い込ませて、王城に助けを求めて自首するように仕向けた。


ここ、王太子の執務室は、俺と王太子だけ。
今だけ、兄弟の顔に戻ろうと思ったのだ。


「兄上は後悔はしないですか?」

兄上、と呼び掛けたのは何年振りだ……昔過ぎて覚えていない。


「ついでに古いものを淘汰することか?
 予定より早まったが、この国に必要な事なら、躊躇しない。
 後悔はそうだな……死ぬ前にいつか、全部まとめてするかな」

もうユージィンは兄の顔をしていない。
王太子が、次代の国王陛下が、切り捨てたのは家族の情。


「明日は朝早くから動いて貰うし、ここ2、3日はちゃんと休めてなかったろ?
 今夜は早く寝ろよ」

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