この胸が痛むのは
さっき、顔を合わせた時彼の背が高くなっている事、声が低くなっている事、そして今。
お前ではなく、君と呼び掛けられて。
ケネスがすっかり、大人になったのだと思いました。

どう答えていいのか、わからず……黙ったままの私に彼は続けました。


「クラリスとどうとか、噂には聞いてたんだけど。
 プレストンも何も言わないしね。
 だけど、あれを見たら殿下は君の事が……」

「やめて、そんなんじゃない」

「……」

「私の片想いなの、殿下はお優しいから冷たく
出来ないの。
 お姉様がお好きだったの!」

ケネスは何も悪くないのに、きつい言い方をしてしまいました。
決まり悪くてだまっていると。


「俺から見たら、違うけどな……
 ちゃんと聞いたの?」

いつかのリーエと同じような事を言われましたが殿下はきっと私にははっきり断らないのは、わかっていましたから。
姉との仲を遠回しに知らせる事が出来たであろう婚約披露の夜会は、もう開かれない。
だから、私にはもう言えない。


「本当はお話するのが怖い。
 ふたりきりにならないように、私と殿下の間に入ってくれる?」

私は嫌がるケネスに、そう頼んだのです。
< 347 / 722 >

この作品をシェア

pagetop