この胸が痛むのは
「少しでも時間が出来たら、身体を休めなきゃ……」

「アグネス、おばあ様がお呼びだよ」 

その時、ケネスがやっと現れてくれて、殿下に頭を下げて、私を連れて行ってくれました。
もう一度、頭を下げようと振り返ったら、殿下がこちらをずっと見ていました。

私の手を引きながら、ケネスがぶつぶつ言っていました。


「俺は殺されるよ、絶対。
 消される前に、ちゃんと殿下に言ってくれよ。
 こんなの間違ってる」

「殿下はお優しいよ」


「いやいや、今の目を見た?
 あれは俺に、死ねと言ってたよ。
 後1回だけだからな? 明日は知らない」

「そんな事言わないで?
 殿下とふたりでお話ししたら、どんどん好きになるの」

「どんどん好きになればいいだろ!
 もうクラリスはいないんだから!」

……そうね、クラリスはもういない。
私が消えて、と呪ったの。



夕方、殿下がお帰りになると仰って、私は兄からお見送りをするように言われました。
マーシャル様と侍従の方が先に馬車へと行かれて。

殿下は私が組み紐を結んでいない事に気付かれたようでした。


「切れたんです、切れてしまいました」

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