この胸が痛むのは
先代が罵った、ゲイルとは家令の事です。
自分への連絡を怠ったと、先代は彼に激怒して辞めさせる様に、父に怒鳴りました。
ご自分が当主だった頃から我が家に尽くしてきてくれたゲイルを惚けた、という祖父に反発しか感じませんでしたが、口答え等許される筈もなく。
ところが、兄が一歩前に出て。


「ゲイルには私が、連絡は後で良いと命じたのです」

兄の体の前に、父が手を出して要らぬ事を言わないように下がらせようとしたのですが、兄は続けました。


「父上が戻られていなかったので、私がそう命じたのです」

「お前がか? どんな了見でそんな勝手な真似をしたか、話してみろ」

先代は馬鹿にした様に兄を見ました。
隣には祖母が座っていて、孫である大切な嫡男が責められているのに、自分には無関係であるかの様な表情をされていました。


「捜索に人も馬も足りませんでした。
 領地に早馬を走らせるのに、2騎も使いたくなかったのです」

「あぁ、なる程お前はあれか?
 皆に采配を振るのは楽しかったか?
 さぞや、わくわくしたろうな?
 このまま、姉が戻りませんようにと……」

「父上!」

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