この胸が痛むのは
母の棺に近づき、百合を入れ、祈りを捧げます。
お顔の横に、今朝どうにか完成したハンカチと、この事故を起こすことになった原因の……
『アグネスのハンカチ』が、畳まれて。

母はいつも姉を優先していると、私は拗ねていました。
何でも出来る姉がご自慢で、私は後回しにされていると。
母は何度も、私に手を伸ばしてくれたのに。
いつも気付かない振りをした。



姉には後で薔薇を捧げましょう。
今は祈るだけ……
あの朝、あんなに酷いことをした。
怯えたように私を見た姉に、私は胸がスッとした。

悔やんでも悔やんでも、もう姉が私の手を取る
事はもう……ない。
私と兄が乗る馬車を見送っていた姿が、最後に見た姉でした。


 ◇◇◇


母の忘れ物を、祖母のタウンハウスへ取りに戻る際
『忘れ物を取りに行くなんて、貴方のお仕事じゃないのに』
姉はそう言って、馬車の中から護衛騎士に感謝をしたそうです。
向かいの席の母も、申し訳無さそうにしていたとか。


姉も、母から教えられていたのでしょう。
『仕事を多く抱えている使用人に、それとは別に自分の用事をさせるのなら、きちんとお礼は言いなさい』


母と姉が邸に戻ってきた時、棺の前で彼は、お側を離れて申し訳ありません、と父に泣いて謝りました。
父は頭を振り『いいんだ、いいんだ』と、何度も呟いて。
跪いたその肩を軽く叩いていました。

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