この胸が痛むのは
父を苦手にしている殿下の為に、あの御方を慕う私の為に。
兄は凄く良いことをしたんだという風に得意気にさえ見えました。


「それで姉上の部屋に入って探したけれど、それらしきモノはないし。
 悪かったけれど、ついでにお前の部屋を覗いたら、クローゼットにアローズの箱があって、中を見たらドレスだろ」

「ついでにって! 私のクローゼットに、勝手に!」

自分だって、姉のワードローブを物色したくせに、兄を責めました。
だって、姉とは女同士だけど、兄は男性です。
いくら、私が子供でも許せない! 私は拳を振り上げて叩こうとして、軽く躱されました。


「落ち着けよ、俺の部屋に持って行ってたから返さずに済んだんだろう?」

その声に不穏なものを感じて、兄の顔を見ました。


「おかしいと思ったんだ。
 レニーに聞いたよ、王城から戻ってきた父上は明らかに怒っていた、って。
 直ぐにクラリスの部屋を探させて、次はお前の部屋だ。
 そこにも無いなら、どうして他の部屋を全部探さない?」

< 363 / 722 >

この作品をシェア

pagetop