この胸が痛むのは
「旦那様、先触れが」

それを読んだ父が私の方を見ました。


「アシュフォード殿下からだ。
 明日、お前に話があるそうだが、どうする?」


殿下が久しぶりに御出になる……
お忙しかったのが、済んだのだ。
お話は以前から『話したい』と、仰っていた事でしょうか。
それとも、今度は私に例のドレスを探して欲しいと仰せになるのでしょうか。


「畏まりました」

そう応える以外にありませんでした。
私も……事故の前夜に行った……あの、姉への呪いの話をした方がいいのでしょう。
打ち明けてしまえば、この苦しさが楽になるような気が致しました。
あの時の事を思い出すと、今も息が苦しくなって、汗が出てきます。


呪文も言えず、月を映したグラスの水も飲んでいない。
呪いなんて迷信で、本物じゃない。
信じてなんかいなかった。
死んで、と呪ったわけじゃない。
……ただ、ただ

クラリスに消えて貰いたかっただけ。

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