この胸が痛むのは
『手短に』そう、殿下は仰せになったのに。
姉はとうとうと話し、殿下はそれを聞いておられました。

私が父の前で感情をぶちまけたように、この場でも同様の真似をするとでも思ったのでしょうか?
そんなことをするつもりは一切ありませんでした。


『先手を打たれた』
私がひねくれているのかも知れません。
もう姉のする事を素直に受け取れないのです。
姉の口から紡がれる一連の出来事を聞きながら、自分の中に黒いものが生まれたのがわかりました。


「話はそれだけか?」

「……左様でございます」


殿下は侍従をお側に呼びました。


「本日のマーシャル夫人のご都合を聞きに行って欲しい。
 時間があるようなら、こちらに出向いて昼食を御一緒しようとお誘いしてくれ。
 私とアグネス・スローン侯爵令嬢との食事の席に付き添って欲しい、と伝えてな」

侍従は直ぐにサンルームを出ていきました。
それを見送って、次に背後の護衛騎士様にこう仰いました。


< 37 / 722 >

この作品をシェア

pagetop