この胸が痛むのは
「祖母に誘われまして、私も来月からトルラキアへ行くことにしました」

殿下は驚かれたのでしょう。
私からの相談も何もなく、聞かされたのです。
黙ってしまわれた殿下に、私は目を合わせず話し続けました。


「以前、殿下も好きな事をしてもいい、と仰っていらした。
 私はトルラキアへ行きたいのです。
 母も姉ももういなくて、ここには悲しい思い出しかなくて、しばらく離れたいのです」


父も兄も、私に良くしてくれているのに。
自分でも酷いことを言っているのはわかっていましたが。
殿下はリヨンに行かれてしまうけれど、ここには貴方との思い出が多すぎる。


「……確かに俺はそう、好きにして自由にして欲しい、そう言った」

「……」

「いつまで、と聞いてもいい?」

「中等部から、あちらの学校へ入って……」

「移住する、って事?」


殿下の声が低くなって……早口になって。


「お父上からも承諾は得たの? 旅券の申請も終わっているの?」

「……父からは、お前の好きにしていいと。
 申請はまだです、今夜話して、手続きをして貰おうと思います」

「……」

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