この胸が痛むのは
「先走るなよ、王族のお前にそんな真似はさせるか。
 ギルやお前みたいにひとりだけ、と決めているのは尊重する。
 反対に、父親の公爵に気を付けろ、と言いたかっただけだ。
 あっちはあっちで、バロウズに入り込みたいだろう……シモーヌ周辺からの誘いには用心して、媚薬に気を付けて」

「……」

「出発する前に、侯爵にアグネス嬢との婚約の打診だけはしたらどうだと、提案したかったんだ。
 スローン侯爵家は喪中だが、婚約を申し込んでいると、リヨンで周知させてもいいと思う。
 お前の虫除けになる」


虫除けにとの言い方に引っ掛かるが、王太子も思っていたより人間味があってよかった、と思った。
シモーヌ公女を利用しろ、なんて言われたら……
辺境伯夫人もこれで、完全にアグネスを諦めるしな。


「お前みたいに女性の扱いが下手なやつに調略なんて無理な話だろ。
 ライナスを連れていって、アイツを公女に近付ける算段をするんだ」


クリスチャン・ライナス伯爵令息は齢22の、男から見ても目を奪われる程の美丈夫で、銀髪の近衛騎士だ。
王城では数々の女性と浮き名を流していて、レイの持っている恋愛相関図では四方八方と赤い実線で繋がっていると思われた。
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