この胸が痛むのは
王太子は長くなりそうな話に、一旦席を外そうか、と言った。
確かに事件が起こるまでは俺だけがやらかした事だ。


「後で、呼んでくれ」

俺にそう言って王太子は出て行く。
これは関係ないから、というより多分。
自分がいない方が侯爵が本音を出せる、と気付いたからだと思う。
この先はどんどん、聞かせるのが辛い話になる。


「餞別とは?
 3年も経って何に対してのお別れ、ですか?」

「……あの事件が起こらなければ、クラリス嬢はスローン侯爵家を出るつもりで。
 私はその足しになれば、と問題なく持ち出せて換金して貰おうと、ドレスを送った」

「……クラリスの家出の手助けを、殿下はなさろうと?」 

「そうだ……それが約束の報酬だった」

「家出とは駆け落ち……クラリスに男が居たのですか?
 殿下はその男の事も知っていて?
 もしかして、私だけですか?
 プレストンもアグネスも、妻も皆が知っていて、私だけが知らされなかった?」

怒りというより呆然とした表情の侯爵に本当に
申し訳なかった。
家族は誰も貴方を騙していない。
俺とクラリスだけが黙っていた。


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