この胸が痛むのは
俺が黙っているので、侯爵も無理に相手の名については口を割らせようとはしなかった。
ただ黙って、苦々しげにトルラキア、と呟く。
あの国にはアグネスの祖母が惚れ込んで移住すると聞いていたが。


「まあ、ここまではクラリスの事情に殿下が巻き込まれただけの話ですね?
 だがドレスの誤解の件については、何一つ隠さずに話していただきますから」

「わかった……わかりました。
 全ては俺の……」


 ◇◇◇


ちゃんと話さねばと思うと、時間がかかってしまった。
それまで前方に傾いていた侯爵の身体は、途中から背中を凭れて深く座るようになり。
額を押さえていた。

何度となく、途中で口を挟みたそうにしながらも黙って最後まで聞き終えて。
俺がグレイシー姉妹の証言と、実行犯の御者の供述調書を渡すと、丹念にそれを読んでいた。


「殿下はガードナー侯爵令嬢の勘違いで、その様な注目されているドレスがクラリスに贈られたと、それを私に話すべきでした。
 だが、殿下は……家出の協力で贈った事は秘密にしたい。
 王家は第2王子殿下の婚約者と第3王子殿下、ふたりの失態を臣下に知られて侮られたくない。
 それで密かに動かれた。
 特に殿下の名前入りのカードの破棄を急がれたのは……
 それを私やクラリスが何かに悪用するとでも?」

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